予算・人員制約下でも可能!自治体における多言語情報発信の組織体制づくりと部門間連携
はじめに:自治体多言語情報発信における組織連携の重要性
地域に暮らす外国人住民の方々へ、必要かつ適切な情報を多言語で届けることは、安全・安心な地域社会を築く上で不可欠です。しかし、多くの自治体では、多言語情報発信を担当する部署が限定されていたり、部署間の連携が不足していたりする現状があります。特に予算や人員に制約がある中で、効果的かつ継続的な多言語情報発信を実現するためには、組織全体の体制構築と、部署横断的な連携強化が鍵となります。
本記事では、限られたリソースの中でも、自治体内で多言語情報発信体制を構築し、部門間の連携をスムーズに進めるための具体的なアプローチをご紹介します。
多くの自治体が抱える多言語情報発信体制の課題
まずは、多くの自治体で共通して見られる多言語情報発信体制に関する課題を整理してみましょう。
- 担当部署の不明確さ・限定: 国際交流担当部署や広報課などが主に担っているものの、情報の内容は多岐にわたるため、各専門部署(福祉、防災、ごみ問題など)との連携が不十分になりがちです。
- 部署間の情報共有不足: 各部署が発信するべき情報を、多言語化担当部署がタイムリーに把握できない、あるいはその逆で、現場に必要な多言語情報が届きにくいといった課題があります。
- ノウハウやリソースの属人化: 多言語対応に関する知識や経験が特定の職員や部署に集中し、組織全体で共有・活用されていないケースが見られます。
- 継続性・持続可能性の確保: 担当者が異動した場合にノウハウが引き継がれなかったり、特定のプロジェクト期間のみの対応となり、継続的な情報発信が困難になったりします。
- 予算・人員の制約: 多言語対応に特化した予算や人員を十分に確保することが難しく、既存業務との兼ね合いで対応が後手に回りがちです。
これらの課題を解決し、より効率的で効果的な多言語情報発信を実現するためには、組織としての方針を定め、体制を整備し、連携を強化していく必要があります。
体制構築の第一歩:現状把握と目標設定
体制構築に着手する上で、まず行うべきは「現状の把握」と「実現可能な目標設定」です。
-
現状の把握:
- 現在、どのような情報が、誰によって、どのような方法(媒体)で多言語化され、発信されていますか。
- 各部署はどのような多言語情報に関するニーズを抱えていますか。
- 外国人住民からは、どのような情報が求められていますか(窓口での問い合わせ内容、アンケート結果、支援団体からのヒアリングなど)。
- 組織内に多言語スキルや対応経験を持つ職員はいますか。どのような外部リソース(NPO、通訳・翻訳者、支援団体など)と連携していますか。
- 多言語情報発信に関する予算は、どのように使われていますか。
-
目標設定: 現状把握の結果を踏まえ、短期・中期的な目標を設定します。例えば、「まず避難情報に関する最低限の情報を5言語で発信する体制を構築する」「窓口業務でよくある質問の多言語対応マニュアルを作成し、全庁で共有する」など、現実的で測定可能な目標を設定することが重要です。
効果的な組織体制の検討:リソースに合わせたアプローチ
理想的な体制は、専任の多言語対応部署を設置することかもしれませんが、予算や人員に制約がある中でそれは難しい場合が多いでしょう。自らの自治体のリソースに合わせて、以下のようなアプローチを検討することが現実的です。
- 核となる担当部署の設置と権限強化: 国際交流担当、広報課、企画課など、いずれかの部署を多言語情報発信の「核」と位置づけ、情報収集・発信に関する一定の権限と責任を持たせます。ただし、核となる部署だけで全てを担うのではなく、各部署との連携窓口としての役割を重視します。
- 各部署における「多言語対応推進担当者」の配置: 各部署に、多言語情報発信に関する担当者(専任でなく兼任でも可)を置きます。この担当者は、所属部署で発生する多言語化ニーズを核となる担当部署に伝えたり、逆に核となる部署から発信される情報を所属部署内で周知したりする役割を担います。
- 横断的なプロジェクトチームの設置: 特定の重要課題(例:災害時の情報伝達、行政手続きの多言語化)に対して、関係部署の職員を集めたプロジェクトチームを期間限定で設置し、集中的に取り組みます。
部門間・職員間の連携強化策
体制を構築しても、連携がなければ機能しません。以下の方法で、部署間や職員間の連携を強化しましょう。
- 定期的な情報交換会・会議の実施: 核となる担当部署が中心となり、各部署の多言語対応推進担当者を集めた定期的な会議や情報交換会を実施します。多言語化が必要な情報や、外国人住民からの声、成功事例・失敗事例などを共有し、共通認識を醸成します。
- 共通の情報共有プラットフォームの活用: 多言語化が必要な原稿、翻訳済みデータ、外国人住民からの問い合わせ事例、多言語対応マニュアルなどを、部署横断的にアクセスできる共有フォルダやクラウドサービスなどを活用して一元管理します。これにより、情報の散逸を防ぎ、必要な情報に誰でもアクセスできるようになります。
- 多言語対応に関する知識・ノウハウの共有: やさしい日本語の書き方、AI翻訳の活用方法、外国人住民への効果的な伝え方などの研修会を定期的に実施したり、実践的なマニュアルを作成・共有したりします。これにより、特定の職員だけでなく、組織全体の多言語対応能力を底上げします。外部講師や既にノウハウを持つ自治体との連携も有効です。
- 役割分担の明確化と合意形成: 「情報の一次発生部署はここまで担当する」「多言語化の最終チェックは核となる部署が行う」「翻訳は外部委託を基本とするが、簡単なものは担当部署でも対応する」など、誰がどの範囲を責任を持って担当するのかを明確にし、関係者間で合意形成を行います。これにより、作業の重複や漏れを防ぎます。
限られたリソースを最大限に活かす工夫
予算や人員が限られている状況下では、既存のリソースを最大限に活用し、効率化を図ることが不可欠です。
- 既存業務プロセスへの多言語対応の組み込み: 情報発信や窓口対応などの既存の業務プロセスに、多言語対応の視点を最初から組み込むようにします。例えば、広報紙作成時にやさしい日本語版の作成を同時に検討する、窓口業務マニュアル作成時に多言語フレーズ集を付記するなどです。
- 外部リソース(NPO、ボランティア、翻訳会社など)との連携強化と窓口の一元化: 地域の国際交流協会、外国人支援NPO、多言語ボランティア、専門の翻訳会社など、外部の力を積極的に活用します。これらの外部リソースとの連携窓口を核となる部署で一元管理することで、各部署が個別に依頼する手間を省き、連携の質を向上させることができます。
- 定型的な情報発信の自動化・効率化: 頻繁に発信する定型的な情報(例:ごみの分別方法、イベント情報など)については、テンプレートを作成したり、ウェブサイトの多言語自動翻訳機能を活用したりするなど、自動化・効率化を検討します。
- 情報発信の優先順位付けと重点化: 全ての情報を全ての言語で発信することは不可能です。外国人住民のニーズや情報の緊急度・重要度に基づき、情報発信の優先順位を組織として決定します。まずは生活に直結する情報や災害情報など、最も必要な情報から重点的に多言語化を進めます。
まとめ:連携を強化し、継続的な多言語対応を
予算や人員に制約がある中でも、自治体内の多言語情報発信体制を強化し、部門間の連携をスムーズに進めることは十分に可能です。そのためには、まず現状を正確に把握し、無理のない目標を設定することが第一歩となります。
そして、核となる担当部署の設置、各部署の推進担当者の配置、情報共有プラットフォームの活用、定期的な情報交換、ノウハウの共有、役割分担の明確化といった連携強化策を地道に進めることが重要です。さらに、外部リソースとの連携や、既存業務への組み込み、優先順位付けといった効率化の工夫を組み合わせることで、限られたリソースを最大限に活かすことができます。
組織全体の力を結集することで、外国人住民が必要な情報にアクセスしやすくなり、地域コミュニティの一員として安心して暮らせる環境づくりに貢献できるでしょう。最初から完璧を目指すのではなく、できるところから少しずつでも体制を整え、連携を深めていくことが、持続可能な多言語情報発信の実現につながります。